Negative Finder

気づいたり、再確認したり、思いついたこと書くスペース。日記兼用。

猫夢

久しぶりに強烈で哀しい夢を見た。



閑静な住宅街を歩いている。友達に呼ばれたような気がしたので、すぐ目の前の曲り角で折れてみた。一般道が途中で砂利道に変わっており、その先には細くて舗装されていない私道と、粗末な一階の長屋がいくつも、その両脇に連なっていた。



一番手前の家はブロック塀が崩れており、崩れたブロックの瓦礫に、ジーンズとTシャツの若者が座り込んで空を仰いでいた。おれの友達ではなかった。


(この奥か)と二、三歩進むと、ちらと猫の姿が見えたので嬉しくなった。
猫は、好きだ。


目に止まった茶トラの猫が手前の民家の窓から入って行くのが見えたので、回り込んで覗いてみた。


茶トラの猫は開いた窓のすぐそばで座り込んで横向き加減で俯いていた。その目線の先を辿って、目が釘付けになった。



洗面器よりもふた回りほど大きな桶に、白い猫がいた。でもそれは「猫だったモノ」と言った方がより正確で、白い猫の首と胴体は別々に千切れていた。千切れた首と胴は一緒に桶に入れられていて、よく見るととても違和感があるのだけどパッと見では白い猫が桶の中で丸くなって寝ているようにしか見えない。


首と胴の分かたれた白猫を、茶トラはほんの数センチだけ高く見下ろしている。表情は変わらない。というか、人間のおれには差異があるのかどうか、さっぱり読み取れない。


白猫の死骸に血は見当たらなくて、むしろ乾いた感じがした。「乾いている」と気付いた辺りで茶トラが動いた。闖入者であるおれを見上げ、もう一度だけ白猫を一瞥し、それから開け放たれた窓から出てきておれなど構いもせずに脇を通過して行った。



茶トラが動いたことでおれの凝固した時間がようやく動くようになった。思わず肩に力が入っていたようで、茶トラを目で追おうと首を回すとビリリと電気が走った。振り向いてから一呼吸置いて、「乾いている」のは白猫の死骸だけではなく、この私道の長屋周り全てだと気が付いた。


茶トラはいたけれど、それ以外の猫もたくさんいて、すぐにどれがどれ、と区別するのは面倒だと気付いた。その狭いエリア内に、気配だけでざっと百匹以上はいるように感じられた。至る所で猫がいて、みな一律に「目の前を凝視」しているような表情だった。


つまり「強く」、「ブレず」、「集中して」、「目前だけ」を見ていた。
だからつまり、おれは完全な部外者だった。「人間と猫」という区別とは一切関係無く、そこは猫の世界だった。



同時に至る所で猫が死んでいた。
すでに腐っているモノもあり、私道全体から激しく臭ってくることに、今さらながらに気が付いた。だがおれは異常だとかそういう感想は持たなかった。何が起きているのかも別に気にならなかったし、原因と結果として風景を分解する気がまるで起きなかった。


人は居ないようだったので、家屋に土足に上がり込んでみたりした。猫達は逃げるでもなく、行動は揺るがなかった。猫の死骸を他の猫は無視していたし、おれもまた死骸同様無視されているような気がした。先の茶トラは例外的な行動を取っていたのだと認識が更新された。



また、友人の声が聞こえたような気がした。それを探すように私道を奥へ向かう。途中、一軒の庭の片隅で猫が5,6匹、直列で繋がって交尾しているのにだけは、真っ直ぐな恐怖をおぼえた。


その異様な光景よりもむしろ、その猫達がおれを見やったのが大きい。無視されなかったことで、一瞬傍観者の立場から、その狂った世界に取り込まれかけたためだ。



と、その恐怖をおぼえた段階で夢がぼやけた。目が覚めてから思い出すと、ある程度自由意志で動けて、明晰夢に近いものだったのだと気付いた。



もっと明晰夢に熟練したいなあ。