Negative Finder

気づいたり、再確認したり、思いついたこと書くスペース。日記兼用。

見たくもない

やっぱり朝起きた瞬間に書くか、概要だけでもメモしておくか、そうでもしないと夢覚えてられない。起きて2時間も過ぎてしまえば忘却の彼方だね。夕方にもなっちまえばなおさら遠くてあやふやだ。夜ではもう想像に近い。移ろいやすい人の世哉。とりあえず書く。

……


おれは大学の友人たちと夜の街で騒いでいた。
飲み会の後なのか、これから飲みに行くのかはわからないけど、とにかく「遊ぶぞっ!」というエネルギーを感じさせる集団だった。まあ他人から見たら「他所でやれ」というようなテンションで、つまり「大学生の集団ってウゼー」というような雰囲気だ。

ウザいおれたちは、なんとなく徒歩で繁華街を練り歩いていたのだけど、うち1人はなぜかハーレーのような化け物バイクに乗っていた。あれはなんのために作られたマシンなんだろう。手軽さ、価格帯、スピードと効率性、どれをとっても不合理な気がする。そういう「実用性」から考えた時に不合理な選択肢を、人は「趣味」あるいは「ファッション」などと呼ぶんだろうな。大して美味しくもないのに高価で珍しい話題性のある食べ物を食べるとか、凍えるほど寒いのに生脚を曝け出したりだとか、その手間を省けばもっと役に立つように見えるモノに時間を充てるだとか。その化け物バイクも、おれにはファッションの塊に見えた。ファッションの塊を、これで中々どうして無駄に器用に操縦し、練り歩くおれたちに合わせて超スローで練り走らせていた。謎の技術だ。

ところが、そんなことを考えながら街角の1つを曲がった瞬間に、おれは仲間たちの姿を見失ってしまった。次の目的地へ置いていかれたのか、あるいは解散の合図を聞き取れずに見落としたのか、角を曲がるとおれは1人だった。

後ろを振り向いても、左右を見回しても、そこには誰もいない。賑やかを通り越して、少し鬱陶しいくらいの若者やおっさんの大声や呼び込みの声も影を潜めてしまった。人っ子1人いやしねえ。

さて、どうしようかと少し途方に暮れた。
仲間に連絡を取り合流を図るか、もしくはこのまま帰っちまおうか。携帯の充電を見ると残り1%である。スリープを解除し、連絡先を表示させた瞬間に充電が落ちてしまった。選択肢が無い。じゃあ帰ろうか。

おれはなんとなく駅とは反対方向の住宅街の方へ足を向けた。この有様では電車も動いてないだろう。繁華街から遠ざかり、十数分歩いたところではたと気付いた。おれは、どこへ帰ればいいんだろうか。よくよく見渡せば見知らぬ街だ。この街に、おれの帰る場所なんてあるわけがない。おれの足はどこへ向かっていたんだろう。

……カツン、と足音がした。
まだ誰か残っていたのか。そうして、はぐれてしまったおれを探しに来てくれたのか。そう期待して後ろを振り向く。誰もいない。また、カツンと音がする。カツン、カツン、カツン、カツン。

足音ではなかったのか。では一体これは、何の音なんだろう。カツン、カツン。ほんの少しおれの後ろから、カツン、カツン、と聞こえてくるこの音は、誰かの足音ではないのか。カツン、カツン、カツン、カツン。とりあえず、家に帰ろう。

闇雲に歩く。カツン、カツン。カツン、カツン。住宅街のはずなのに、妙に暗い。時間もそう遅い時間ではないはずだ。辺りはシンと静まり返って、それが妙に暗い。家屋の窓から漏れ出る光も無音の所為か、妙に薄暗い。カツン、カツン、という足音だけがとてもよく響く。耳に残るように気になってしまい、いつしかおれは、このカツン、カツン、という音から遠ざかるように少しずつ足早になり、気が付けばタッ、と駆け出していた。


……タッ、タッ、タッ、カツン、カツン、カツン、ハァ、タッ、タッ、ハァ、ハァ、カツン、カツン、カツン、カツン、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、カツン、カツン、ハァ、ハァ、ハァ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、カツン、カツン、カツン、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン……………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、息切れが、ハァ、ハァ、止まない、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、いつまで、ハァ、走れば、ハァ、ハァ、どこに、逃げ込めるんだろう。

逃げる? 待て。逃げているのか? それは違うんじゃないのか。なぜ、おれが逃げなければならない。おれは別に追われているわけじゃない。それが、どうして逃げなければいけないんだ。おれは、おれの行きたい場所へ、おれが好きなように行けばいいではないか! 唐突に理不尽な怒りに駆られて立ち止まる。カツン、カツン、カツン、カツン。この忌々しい足音の正体を暴いてやる。そう思いを定めて目一杯真後ろを振り向く。そこには何も無かった。足音の正体はおろか、人も、道も、家も、色も光も何も無かった。走って来た足跡は跡形も無くて、音を立てる何も無くて、カツン、とまた1つ耳元に響いておれはさらに振り返るけれどそこにも何も無くて、右も左も無くて、地に足を着いているのかすら覚束なくなってしまった。

……カツン、と音がして、もういっそのこと諦めようかなと顔を覆おうとして気付いた。顔も手も、頭も胴も足も、そこに無い。あんなに執着していた身体感覚なんて、どこにも無くて、おれは意識だけしか無かった。


この後は、なんか途中で意識が変わったのか、足音の正体が分からないままおれを自宅まで追い立てるショートホラーストーリーに変わってしまったので、一続きの夢はここで終わり。

友人の中で騒いでいる自分は、なんだろうか。
いつの間にか1人になっていた自分は、なんだろうか。
帰るべきか、仲間と合流すべきか、迷っている自分とはなんだったのだろうか。

よく分からないままに「帰る」と決めて歩き出した自分、途中で後ろから「誰か」の足音に気付き、それから「逃げよう」とする自分、理由も分からないのに「逃げている」ことに「怒りを感じ」、それを見てやろうと「決意」したにも拘らず、気付けば「自分を追い立てたモノの正体」も分からず、「立ち位置」も見失う……これは、なんなのか。

なんだ、人生の振り返りかなんかか。
どうせなら、夢だ幻だとケチくさいこと言わずに時間を丸ごと巻き戻してくれればいいのに。もっと幸せな夢が見てえよ。